2015年6月9日火曜日

2015.06.07 栃木県交響楽団第99回定期演奏会

宇都宮市文化会館 大ホール

● 今回に限らないんだけど,開場前にはいわゆる長蛇の列。ぼくは列の前のほうに並ぶことが多いんだけど,今回は後のほうになった。
 列を作っている人たちを眺めながら,世の中に暇な人って多いんだなぁと思った。当然,自分のことを棚にあげている。ぼくもその暇人のひとりっていうか,ひょっとしたらその筆頭かもしれない。

● 中には寸暇を惜しんでっていう人もいたかもしれないけれども,なんの,ほとんどの人は惜しむ必要もないほどに暇なんだと思うぞ。
 暇なればこそ,こういう演奏会に足を運ぶことができる。演奏会に限るまい。人生は暇であってこそ。

● 今回の曲目は次のとおり。指揮者は三原明人さん。開演は午後2時。チケットは1,200円(前売券)。
 メンデルスゾーン 交響曲第4番「イタリア」
 リスト 死の舞踏-「怒りの日」によるパラフレーズ
 ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」

● 交響曲が2つ。最近,こういった重量級のプログラムが多くなったような気がする。
 ともあれ,初っぱなはメンデルスゾーンの「イタリア」。CDでは数えきれないほど聴いている。クラシック音楽を聴こうと思っている人に最初に勧める曲として,ホ短調協奏曲は格好なものかもしれない。メンデルスゾーンは入っていきやすいという印象がある。
 適度に情緒がこもっている。曲に入っていきやすい気がする。

● 今回は対抗配置。「第九」を別にすれば,栃響が対抗配置を採るのは珍しいように思う。
 が,実際のところ,対抗配置だろうとストコフスキー配置だろうと,それによって音の聞こえ方が違ってくるかといえば,どうもぼくにはピンと来ないところもあってね。
 並べやすいように並べればいいじゃん,っていうくらいにしか思っていない。まことに聴かせがいのない聴衆(のひとり)であるな。

● 以前は栃響を侮っていたかもしれない。オヤッと思ったのは,2012年の「第九」演奏会から。以後,栃響の演奏水準には一切の文句をさしはさまないことにしている。
 今回も同様であって,こういう演奏をしてくれれば,観客が離れていくことはないように思われる。

● リストの「死の舞踏」。ステージの空気が一変した。そりゃそうだ。まったく違う曲調の演奏が始まったんだからね。
 ソリスト(ピアノ)は阿久澤政行さんで,彼のピアノはもう何度か聴く機会を得ている。
 ぼくなんぞには,ビッグネームのピアニストと彼との違いはわからない。見事に何もわからない。
 非常に洗練されているという印象を受ける。緩急自在はさすがにプロという感じ。ときに慈しむように,ときに何者かに挑むように。主張しすぎず,けれども存在感はある。オーケストラとの調和もいい。
 何か問題あるのっていう感じだね。

● 愛嬌があるのは天性のものだろう。何もしないでいても笑っているように見える。これ,すこぶる大事。
 というわけで,スター性もあるように思うのだが。

● アンコールは一転,カールマン「君のくれた美しさ」。静かで穏やかな曲。静謐っていう言葉はこういうときに使うのかもしれない。
 そこにちょっと甘味を加えたような。過ぎ去った私の青春よ,と言ってしまうと少し違うようなんだけど。

● 最後はベートーヴェンの5番。この曲を「運命」と呼ぶのは日本ではあたりまえ。
 なんだけど,Wikipediaによれば「これは通称であって正式な題名ではない。この通称は、ベートーヴェンの弟子アントン・シントラーの「冒頭の4つの音は何を示すのか」という質問に対し「このように運命は扉をたたく」とベートーヴェンが答えたことに由来するとされる。しかしこのシントラーの発言は、必ずしもこの作品の本質を表しておらず,現在では「運命」という名称で呼ぶことは適当でないと考えられている」ということ。

● 学術的にはそうかもしれないけれども,“苦悩を突き抜けて歓喜にいたれ”というストーリーが「運命」という言葉によく絡むんですよね。
 いったんこのストーリーが頭に入ってしまうと,それ以外の聴き方はできなくなる。とすれば,「運命」と命名したのは秀逸なんじゃないかと思ってしまうんですよ。
 ベートーヴェン個人の人生が背景にあってのこと。有名すぎるんですよね。聴力を失って「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いたこと。けれども,その後,きら星のような多くの実りを世に送りだしたこと。

● 演奏も間然するところがなかった。特に,木管が印象的。弦は巧いに決まっている。「イタリア」のあとに,これだけの集中力を持続できるだけでたいしたものだと思う。
 が,ノーミスというわけにはいかない。あたりまえだ。ぼくはミスは咎めない派。オーケストラって森のようなもので,森としてどうかが問題だ。木々の一本か二本が,他とは違うそよぎ方をしたからといって,何ほどのことがあろう。

● アンコールはメンデルスゾーンの“結婚行進曲”。この曲を生で聴く機会はそんなにない(ぼくは初めてだった)。
 というわけで,トータルでかなりのお得感。7月にも壬生で同じ曲を演奏するらしい(「死の舞踏」はやらない)。指揮者も三原さん。さて,どうするか。壬生まで行くか。

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