2014年3月10日月曜日

2014.03.09 吉澤延隆 箏リサイタル-つなぐ

宇都宮市文化会館 小ホール

● 客席は満員御礼状態。お客さんは大半が女性。おばあさま方が多い。若いファン層の獲得は,西洋音楽の演奏会でも課題だと思われるんだけど,いっそうその感を深くする。
 ただ,これってだいぶ昔から言われていたことかもしれない。案外,どうにかなっていくのかもね。ただし,人口構成が逆ピラミッドなんだから,単純計算だと退場者ほどの新規参入者はいないはずで,そこのところがちょっとね。

● ただ,最近っていうかけっこう前からなんだけど,日本人の日本文化への回帰傾向がありますか。夏の浴衣とか,筆記具における万年筆の復権とか(日本文化とは一致しないか),和食の見直しとかね。
 ま,大雑把に過ぎる話なんだけど,昨年は邦楽コンサートの当日券が買えなくて入場できなかった経験をぼくもしていますんでね。暗いばかりじゃないんでしょうね。

● ともあれ,市場縮小はどの業界でも同じ。けれども,いい演奏家は生き残る。「いい」か「ダメ」かの評価がはっきりして,「いい」に需要が集中するようになるんでしょうか。「いい」はかえって忙しくなるような気もするなぁ。

● 主催は宇都宮市文化会館を運営している,うつのみや文化創造財団。「第10回宇都宮エスペール賞受賞者成果発表」公演とある。その受賞者が吉澤さん。
 開演は午後2時。チケットは1,000円。前もって購入しておいた。完売とのことだったから,それで正解だった。

● 吉澤さん,30歳をちょっと出たくらいの年齢。本質とは関係ないんだけど,ルックスも良し。お客さんの大半は女性なんだから,女性に好かれるビジュアルを持っていることは,けっこうな武器でしょうね。
 ぼくも彼くらいの年齢の頃はやせていたんだけどねぇ。くそぅ,羨ましい。
 MCも自身で務め,サービス精神を発揮。ただし,MCはもちろん箏の演奏ほどに上手ではない。あたりまえだ。上手である必要もない。

● まず,次の2曲。
  パク ウンギョン Seeking,comprehending
  名倉明子 答えのない花
 どちらも,現代の作曲家に委嘱してできあがったもの,とのこと。名倉さんは吉澤さんと同じ宇都宮エスペール賞の受賞者。
 その名倉さんがステージに登場して,作曲の意図を説明した。余韻(残響)と音色を味わえるように意を用いたということ。

● 邦楽器を演奏したことがない人が作曲すると,予期しない面白さなり効果なりが生まれることがあるのかもしれない。のだけれども,正直,あまり楽しめなかった。たぶん奏者に依存するところが大きいと思われる,ピンと張った緊張感は感じることができたんだけど。
 こちら側の聴き手としてのあまりの未熟さ,特に現代曲の傾向に対する無知蒙昧が少なからず作用しているだろうことは,言うまでもない。

● 3曲目は沢井忠夫「百花譜」。こちらは箏を知り尽くした人の作。奏法の取りこみに関しては,何でもありのてんこ盛り。それでいて全体の曲調はひじょうにスッキリしている感じ。
 吉澤さんの師匠である和久文子さんとの合奏。こういうのを聴くと,曲と演奏を切り分けることができるのかってことを思う。

● 15分間の休憩のあと,その和久さんのスピーチがあった。吉澤さんがインタビューするっていう流れだったんだけど,実際にはスピーチね。
 弟子たちに対する慈しみ,箏への想い,それに賭けてきたもの。そうしたものが自ずとにじみ出るような話しぶりで,それがちょっと(話が)長すぎるかなっていう印象を消し去った。
 次は,池上眞吾さん。次に演奏された「ごんぎつね」に曲を付けた人。音楽が語りすぎないようにした,とんがった奏法は入れないようにした,というような話。

● で,その「ごんぎつね」。原作は新美南吉。この話,教科書にも載ってるらしんだけど,ぼくは知らなかったんですよね。で,知らなくてよかったと思った。
 篠井英介さんの朗読と「邦楽ゾリスデン」のメンバーによる演奏とで物語が進行するんだけど,なにせストーリーを知らないわけだからね,ドキドキしながら次を待てるわけで。
 1月に見たオペラ「夕鶴」を思いだした。「ごんぎつね」が「夕鶴」の「つう」に重なるわけですね。かつて流行った言葉でいうとトリックスターでもあるんだけど,核心は無垢と善意。この話,オペレッタに仕立てることができるんじゃなかろうか(最後は悲しい出来事で終わるので,オペレッタというのはおかしいんだけど)。

● 篠井英介さん,登場した瞬間に会場内の空気を変える。長く舞台を続けた人なればこそ。すごいと思った。
 演奏終了後に,その篠井さんのトークがあった。自身の舞台のときに,演奏陣は男だけじゃないとヤだと贅沢を言った,男が紋付き袴でやった方が格があがるじゃないですかねぇ,と。
 たぶん,場内の空気を読んで,これならここまでは言っても大丈夫と踏んだんだろうけどね。吉澤さんを讃える意味もあるし。で,実際,大丈夫だったんですけど。
 小心者はちょっとドキッとしちゃいましたよ。

● 最後は松村禎三「幻想曲」を演奏し,アンコールは宮城道雄「さくら変奏曲」でしたか。お得感と後味の良さが残る演奏会でしたね。
 23日には邦楽ゾリスデンの演奏会があるんでしたね。昨年,当日券が買えなくて入場できなかったのはこれ。今回は抜かりなく購入済み。結局,自分の水準に引きつけて聴くしかないんだけど。

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