2010年10月31日日曜日

2010.10.30 第15回コンセール・マロニエ21 本選


栃木県総合文化センター メインホール

● 30日は去年に続いて,コンセール・マロニエ21のファイナルを聴きに行ってきた。1時から総合文化センターのメインホールで。
 主催者は信念を持ってメインホールを会場にしているのだろう。案内も栃木放送かレディオベリーのアナウンサーに来てもらっているようだ。とちぎ生涯学習文化財団の威信をかけた行事のようだ。が,あまりにもガラガラ。

● 今年度は弦と声楽。ファイナルに残ったのは両部門とも6人。弦は学部生が多く,声楽は院修了者が多い。
 昨年のコンセール・マロニエでは出場者の緊張感がこちらにも伝染したのか,息をつめて聴いていた記憶があるのだけれども,今回はそういうこともなくリラックスして聴くことができた。っていうか,出場者もさほど緊張はしていないようなのだ。

● まず弦楽器部門から。
 トップはチェロの加藤文枝さん。京都府出身で東京芸術大学大学院1年。東京音楽コンクールで2位を取っていたり,別のコンクールでは1位も取っている。
 演奏したのはチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲 イ長調」。切なそうに弾くのが印象的だった。

● 次はヴィオラの中村翔太郎さん。兵庫県出身の芸大3年生。高校生の頃から関西の賞をたくさん取っている。天才少年だったわけだ。
 演奏したのは,ヨーク・ヴォーウェン作曲「ヴィオラ・ソナタ第1番 ハ短調」から第1&3楽章。こういう作曲家がいたことを初めて知った。

● コントラバスの片岡夢児さん。大阪市出身のやはり芸大3年生。コントラバスがエントリーできるコンクールはあまりないらしく,ファイナル出場者6人のうちコントラバスが2人いる。この人も某オーディションで最優秀賞を取っている。
 演奏したのはグリエール「コントラバスとピアノのための4つの小品」。

● ヴァイオリンの和久井映見さん。東京都出身。桐朋女子高校の3年生ながら,ステージでの態度はふてぶてしいほどに堂々としていた。体は呆れるほどに細いんだけど,態度は太い。感心することしきり。
 演奏したのは,ショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調」の第3&4楽章。

● コントラバスの岡本潤さん。石川県出身の芸大4年生。この人も北陸のコンサートで最優秀賞を取っている。
 クーセヴィツキーの「コントラバス協奏曲 嬰ヘ短調」を演奏。これまた,こういう曲があったことはプログラムを見て初めて知った。

● 最後はヴィオラの山田那央さん。芸大を卒業してからドイツに渡り,ケルン音楽大学を卒業している。すでに相当な活動実績もあるようで,今さらマロニエでもあるまいと思った。事情を知らない者の戯れ言かもしれないけれど。
 応募要項では35歳までのエントリーを認めているようなのだが,コンセール・マロニエは「若き演奏者を発掘し,支援することを目的と」するコンクールであって,実際は30歳を過ぎた人が1位をさらうことはないのではないかと思う。
 バルトークの「ヴィオラ協奏曲」の第1&3楽章を演奏したが,すっかりスタイルができあがっているようだった。

● 昨年はピアノと木管だった。ド素人なりに順位を付けてみたところ,審査員の先生方の評価とさほどずれてはいなかった。
 けれども,今回はまったく順位がつかなかったですね。すぐ上に書いたような理由で,山田さんの入賞はないと思うし,和久井さんも若すぎるという理由で見送られるかもしれない。しかし,実力的には6人とも横一線という感じ。
 審査員より上手な出場者が,ときに登場するものだろう。そういうとき,審査員は喜ぶものだろうか,悔しがるものだろうか。

● 次は声楽部門。弦と比べると,奏者の年齢が高い。6人のうちソプラノが4人。
 トップバッターはソプラノの志水麻依さん。福岡県出身。長崎市にある活水女子大学音楽学部を卒業してウィーンに渡り,グスタフ・マーラー音楽院を首席で卒業したとある。
 器楽奏者はスレンダーな人が多いと思うのだが,声楽はたっぷりした人が多いですよね。
 東京国際声楽コンクールで1位。マロニエに出場した動機を訊きたくなる。

● テノールの市川浩平さん。静岡県出身。芸大院の2年生。よくこういう声が出るものだ。天賦の才というしかない。そういう喉と気管支を持って生まれてきたんでしょうね。鍛錬や努力でどうにかできるものじゃない。

● ソプラノの谷原めぐみさん。香川県出身。大阪教育大学の音楽コースを経て,芸大の院に進んだ人。この人も数々の受賞歴があり,すでに活動実績も積んでいる。

● 続いてソプラノの石原妙子さん。愛媛県出身。芸大院を修了して,現在はイタリアで勉強中。

● バリトンの菅谷公博さん。千葉県出身。芸大を卒業して桐朋の研究科2年に在籍。
 ピアノ伴奏の奏者が格好良かった。矢崎貴子さんと申しあげるのだが,きちんと客席を意識した衣装で,凛とした感じがとてもよかった。たとえコンクールの伴奏といえども,ステージに登る以上は,ステージに登るオーラを纏うという覚悟?のようなものを感じさせた。

● 最後はソプラノの鈴木麻里子さん。群馬県出身。4人のソプラノ歌手の中では最年少。

● ソプラノは少しでお腹がいっぱいになりますね。正直言うと,途中で飽きてしまった。
 技の巧拙については,ぼくにはまったく判断がつかない。同じに聴こえる。しかし,聴く人が聴けば,はっきり違いがあるのだろう。才能のきらめきのあるなしが明瞭にあるのだろう。
 ここからのわずかな違いが途方もない差となるのだろうね。超一流と並の一流を隔てる壁になってしまうのだろう。厳しい世界だなぁ,と。

● 今回,ステージに立った人たちは,その厳しい世界に自ら踏みこんだ人たちなのだ。自分とは違って「今,ここ」をきちんと生きてきた人たちなのだろう。
 と思うと,彼らに対して襟を正したくなる。自分にはそんな勇気も度胸もない。退路を断つなんて思いつきもしなかったから。

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