2016年2月18日木曜日

2016.02.17 クラリネットと弦楽四重奏によるブラームス室内楽リサイタル-宇都宮音楽芸術財団第26回定期演奏会

栃木県総合文化センター メインホール

● 宇都宮音楽芸術財団主催の演奏会は,2013年11月の第1回目の演奏会を聴いた。「タマーシュ・ヴァルガ チェロリサイタル」。それ以来,2度目。
 開演は午後7時。この財団は会員制であって,基本的には聴衆=会員となる(のだと思われる)。が,非会員のためにも一定数の座席を用意しており,3,000円でチケットを販売している。ぼくはその当日券を買って入場した。

● メインホールの1階席のみを使用。右側4分の1が非会員用の自由席。会員は座席が指定されるらしい。
 正直,空席が目立っていた。平日の夜となると,こんなものか,宇都宮では。先週の今日もピアノの演奏会を聴いているんだけど,先週は翌日が祝日だったからね。

● 財団の財政は大丈夫なのか。実際の会員数はもっと多いんでしょうけどね。平日の夜の演奏会なんだから,来れない会員もけっこうな数いるに違いない。
 スポーツジムだって,幽霊会員の会費がないとやっていけないと言われる。会費だけ払ってくれている会員はこの財団にもいるのだろうと推測する。
 ジムと違うのは,会費だけ払ってくれる会員が一番ありがたいのではなく,聴きに来てくれる会員が最上であるというところ。

● 演目はブラームスの次の2曲。まず,「弦楽四重奏曲第3番」。
 演奏するのは次の4人。いずれも東京交響楽団のメンバー。
 1stヴァイオリンが水谷晃さん。2ndが福留史紘さん。ヴィオラが青木篤子さん。チェロが伊藤文嗣さん。東京交響楽団のコンマスであったり,各パートの首席を務める人たちだ。
 前から2列目に座った。オーケストラであれば,いくら何でもこれでは前過ぎる。もっと後列の席がいい席ってことになるだろう。
 が,弦楽四重奏であれば,できるだけ前がいい。奏者の息づかいまで伝わってくるような席がよろしいね。

● 1列目に座った人はいなかった。つまり,ぼくが一番前。
 その結果,どういうことになるかというと,あたかも自分ひとりのためにステージで4人が演奏しているかのような錯覚に簡単に陥ることができた。世界を征服した気分だね。アレクサンダー大王になったのか,オレ,ってなものだ。
 いや,贅沢感ありまくり。

● 青木さん,ウェストがめっちゃ細い。およそ贅肉はない。が,筋肉はある。“鍛えているんだろうな感”が相当ある。
 鞭のようにしなる身体なんじゃなかろうか。ゆえに,動きがしなやかだし,速さも鋭さもある。たぶん,スタミナも相当なものなのだろう。
 身体を鍛えれば演奏が上達するというほど単純なものではないんだろうけど,彼女に限らず,肉体の手入れを怠らないのは,奏者のたしなみなのかもなぁ。

● 水谷さんは基本,スマイリー。スマイリーの上に立って,表情が豊かだ。
 それって,人を引っぱっていくうえでは大事なことなのかもしれないね。

● 弦楽四重奏って,どうも聴き手を選ぶところがあるように思う。交響曲や協奏曲なら,どうにかこうにかとりつくシマがある。そこから半ば強引にでも自分なりの感想をまとめることができる気がする。
 が,弦楽四重奏の場合は,ダメなときは徹底的にダメ。追いかけようとしても距離がぜんぜん縮まらない。っていうより,追いかける術がないと思うことがある。
 ぼくはずっと苦手意識を持っている。何とかしたいと思うんだけども,弦楽四重奏曲はぼくを選んでくれない。

● 今回はどうだろうか。じつはかすかに手がかりを得られたような気分になっている。
 やはり音楽はブラームスに教えてもらうのがいい。ブラームスを名手が奏でるのを聴くのが,ブレークスルーのための最善の手段かもしれない。
 とはいえ,ほんとにかすかだ。ぐっと引き寄せられるかどうかは,今後の課題。

● この曲の聴きどころはいろいろあるのだろうけど,まずは第3楽章のヴィオラということになる。ヴィオラがここまで切なく美しく歌う曲って,初めて聴いた気がする。他にあるんだろうか。って,ぼくが知らないだけで,あるに決まっているんだけどさ。
 この程度のところから入っていって,どこまで行けるか。

● この分野でもベートーヴェンの業績が目もくらむほどに高い山脈を形成している。その山脈を至近距離から眺めざるを得なかったブラームスが残した弦楽四重奏曲は3つ。
 その3つのCDをしっかり聴きこんで,そこからベートーヴェンに遡るのが正解かなぁ。

● 休憩後は「クラリネット五重奏曲 ロ短調」。クラリネットは吉野亜希菜さん。やはり東京交響楽団の首席。
 その前に,財団の理事長の金彪さん(だと思われる)による奏者へのインタビューがあった。
 水谷さんには,オケのコンマスを務めるのとこういうカルテットの1stヴァイオリンを務めるのとでは,何が最も違うか,という質問。
 福留さんには,いろんな役割をこなさなければならない2ndヴァイオリンを演奏するうえで,最も気をつけていることは何か,という質問。
 青木さんには,ヴィオラを堪能できる曲を紹介してください,というこれは質問ではなくリクエスト。青木さんは作曲家を3人あげた。バルトーク,ヤナーチェク,マーラー。
 伊藤さんには,最も好きな弦楽四重奏曲は何ですか,という質問。
 吉野さんには,ブラームスが才能の枯渇を感じて筆を折ろうとしたあと,クラリネットの曲を書き,さらに名曲を産んでいるが,クラリネットの何がブラームスを救ったと思うか,という質問。

● 金彪さん,本業は脳外科医で獨協医科大学の主任教授を務めている。教授だけやっているわけではないだろう。そのかたわら,こういう財団を主宰する行動力,生命活力に感嘆するけれども,音楽に対する蘊蓄もさすがに大変なもののようだ。
 こういう質問をこういう感じでできるというのもすごいですよ。こういうのって,頭の中でシミュレーションはできても,実際に質問を発して,答えを受けて,そこからさらに展開させていくのは,なかなかできないことでしょ。

● 在日韓国人であり,そっち方面でもいろんな厄介事を引き受けざるを得なかったはずだ。そうした中でここまでの活動レベルを維持しているのは大変なものだ。
 自分と何が違うんだろなぁとどうしたって考えてしまうわけでね。彼の一生は,少なくともぼくの五生分ではきかないはずだからね。

● そこを分かつものは何なんだろ。DNAか,置かれた環境か,あるいはほんの些細な初期経験の違いか。
 人間の一生は複雑系の最たるものだとすると,わずかな初期値の違いが途方もない違いをもたらす。その初期値は与えられるものだろうし,そこは操作不可能な領域だ。
 となれば,どんな一生になっても仕方がないね,と達観するのが正解なのかなぁ。

● さて。ブラームスだ,クラリネット五重奏曲だ。
 吉野さんの顔がだんだんピンクを増していく。これ,すごく色っぽかったんですけど。こういうのって,あれですか,一緒に演奏している男性奏者はぜんぜん平気なものですか。
 平気なんでしょうね。そうでなければ困る。

● よく息が続くなぁと素朴に驚く。もちろん,息つぎはしてるんだけど,わずかしか吸っていないように見える。
 管楽器の奏者って肺活量がすごいんですか。って,肺活量の問題じゃないよねぇ。循環呼吸なんてのを聞くこともある。鼻から吸うのと口から吐くのを同時にやるっていう。必要に迫られればそういうこともできるようになるんですかねぇ。

● 今回は,弦楽四重奏にとりつく手がかりというかキッカケを得られたかもしれない。得られていれば,大きな収穫といえる。
 おめでとう,オレ。

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