2015年11月30日月曜日

2015.11.29 COCKTAIL BAR R-METS

ホテル アール・メッツ宇都宮 5Fラウンジ

● カクテルを飲みながらジャズを聴くという催し。午後3時からと5時からの2回制。5時からの部に参加。
 カクテル2杯とおつまみが付いて,チケットは1,000円。かなりお得というか,限りなくタダじゃん,これ,みたいな。

● 主催者はJR。この催しを知ったのも,最寄駅にあったチラシでした。
 演奏者は,島田絵里(フルート),長島佑季(ピアノ),瀬戸竜介(ベース)。

● 島田さんのフルートは「青少年の自立を支える会」のチャリティーコンサートで何度か(といっても2回か)聴いたことがある。彼女のフルートが聴けるんだったら,これは行く価値があるでしょ。
 というわけで,事前に申し込んでおいた。

● 至近距離で彼女のフルートを聴くことができた。自在闊達っていうんでしょうね。どんな注文でもお受けしますよ,っていう感じ。
 聴いてる絶対量があまりに少ないからなんだろうけど,これがジャズなんだっていうイメージがこちら側にない。これがそうなんですよと言われれば,あぁそうなんですか,と答えるしかないっていう。そこが隔靴掻痒っていうか,なんとなく乗り切れない部分を作ってしまう。

● ジャズファンってけっこう年輩者が多いのかと思ってたんだけど,これは当たってもいそうで,そうではないようでもあった。
 今回は1,000円でカクテルが2杯飲めるんでね,そっちに惹かれて来たお客さんもけっこういると思うんですよね。若者のグループもいたし,女性の二人連れもいた。一方で,けっこうな年輩の男性もいて(ぼくもそうなんだけど),客席の年齢はかなりばらけていたようだ。

● そのカクテル。好きなものを自由に注文できるのかと思っていたんだけども(もしそうなら,ギムレットを2杯飲もうと思っていた),この時間内でそんなことができるはずもなく,カクテルは予め定められていた2種。
 ひとつは,苺(とちおとめ)を使った甘めのカクテルで,もうひとつはアキュム(烏山線に導入された蓄電池駆動電車の愛称)という名称の,これもやや甘めのサッパリ系,涼やかな色合いのカクテル。ロンググラス(というかコップ)に注がれる。

● つまみもホテルクオリティー。経費節減の気配を感じるところもあったけれども,その分,あ,これは工夫かも,と思わせるもので,ぼく的にはまったく満足。
 これで1,000円なら,先に申しあげたようにタダみたいなもの。またやってくれないかな,と思った。

● 何だかんだいって,JRにはお世話になっている。ぼくは車の運転をあまり好まないので,それとわりと酒を飲むほうなので,宇都宮に出るにも電車を使う。
 電車の中で飲む缶酎ハイはどうしてこうも旨いのかと思う。動くパブタイム。時に朝から飲むことがあるんだけども,じつにもって極楽だ。
 車を運転してたんじゃ,これはできない。運転士が電車を運転してくれるからこそだ。お世話になっていますよ。

● それに電車の中は(座れればだけれども)最高の読書室になる。若い頃は,車内で本を読むためにだけ電車に乗ることもあった。こういうとき,「青春18きっぷ」は魔法のような威力を発揮する。
 電車は移動の手段にとどまるものではない。(特に山手線がそうなのだが)世相を知るためのスペシャルボックスであり,美人を盗み見れる眼福の部屋でもある。
 ぼくの知らない使用法がほかにもあるに違いない。

2015.11.29 県立図書館第151回「県民ライブコンサート」-弦楽アンサンブルとファゴットによるコンサート

栃木県立図書館 1階ホール

● 昨日(11月28日)は音楽大学オーケストラフェスティバルの3回目の演奏会(ミューザ川崎)があった。全4回のうち,この3回目が最も楽しみにしていたものだった。
 桐朋がストラヴィンスキーの「火の鳥」を演奏したんだからね。

● のだが,ここ数年間,とりわけここ1年間はわが家は火宅になっている。檀一雄的な「火宅」ではないんだけど。
 で,28日はぼくにとっても愚妻にとっても,そして豚児にとっても,おそらく生涯忘れることのできない1日になってしまった。あるいは,これが良い方向に向かう転機になるかもしれないけれど。逆に,ドツボにはまる契機になってしまうかもしれないけれど。

● が,それから1日明けて。明日からまたゴタゴタするんだろうけど,今日1日は壺の中から天を眺めていられる。
 で,栃木県立図書館主催のミニコンサートに出かけてみた。

● 「ららっつあんさんぶる」の弦楽(+ファゴット)合奏。メンバーは次の人たち。
 大和俊晴(ファゴット),螺良マサ子(第1ヴァイオリン),斉藤礼子(第2ヴァイオリン),小野博子(ビオラ),矢野茂生(チェロ)。
 賛助で,増山一成(コントラバス),澤田奏恵(チェンバロ)のお二人。澤田さんを除くと,メンバーの平均年齢は60代の半ばってところだろうか。要するに,ベテランのグループだね。

● 曲目は次のとおり。
 第1部
 ハイドン セレナーデ
 ドヴォルザーク ユーモレスク
 赤とんぼ,冬の夜,荒城の月,故郷,川の流れのように
 久石 譲 魔女の宅急便より「海の見える街」

 第2部
 マスカーニ 「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
 君島 茂編曲 四季の詩(花-夏の思い出-もみじ-冬景色)
 ヴィヴァルディ ファゴット協奏曲 ホ短調 RV.484

● 第1部では「海の見える街」が白眉。ファゴットの大和さんとコントラバスの増山さんの演奏。お二人とも,宇短附音楽科から藝大に進んだ。増山さんは読響のOBだそうだ。
 切れのいいファゴットと伸びやかなコントラバス。
 加えて,大和さんは県立高校の校長先生まで勤めあげた人のようで,喋りが上手。ファゴットの特徴までわかりやすく解説してくれた。

● 第2部ではヴィヴァルディのファゴット協奏曲を聴けたのがまず,収穫だった。3楽章とも演奏。この曲はCDも持っていない。
 こういうときって,一期一会だと腹を決めて聴いたほうがいいんでしょうね。これはあとでCDを入手して聴き直そうとか考えないで。

● ちなみに主催者が用意した椅子はすべてうまった。っていうか,足りなくなっていくつか追加したようだ。地元では知る人ぞ知るの演奏団体だったのかもしれない。

2015年11月24日火曜日

2015.11.22 コンセール・マロニエ21 20周年記念コンサート

栃木県総合文化センター サブホール

● コンセール・マロニエ21が発足して,今年で20年になる。で,「これまでの上位入賞者の中から各分野で活躍中のアーティストを招き,記念の演奏会を開催します」というのが今回のコンサート。
 楽しみにしてたんですよ。どのくらい楽しみにしてかといえば,チケットを二度買ってしまったほどに。早々に買ってたんですよね。それなのに,そのことを忘れてて,もう一度買ってしまった。
 余ってしまったチケットは友人にもらってもらえたので,基本,損失は出さなくてすんだんですけどね。

● このコンサート,開演は午後3時で終演予定は午後6時半。普通のコンサートの約2倍の長さ。弦,ピアノ,木管,金管,声楽の各部門から「上位入賞者」を招いてプログラムを組み立てるとすれば,このくらいの長さにはなるんだろう。
 これで2,000円なんだから,かなり美味しいコンサートだと思っていた。

● けど,ぼくのような者でも,時によんどころない事情に襲われる。わかっていても行けないっていうやつ。
 で,いったんは諦めたんだけど,その友人からまだ間に合うからと言われて,気を取り直して出かけた。もちろんそれで正解で,ぼくが会場に到着したのは5時を過ぎていたけれども,後半を聴くことができた。

● このコンサート,3部構成だったんだけど,ぼくが聴いたのは第2部の途中から。トリオ・ラ・プラージュ(ピアノ:渚智佳,ヴァイオリン:田口美里,クラリネット:近藤千花子)の演奏からだった。
 チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割人形」。全曲ではなく,トリオ・ラ・プラージュ(主には渚さんだと思うが)が編曲した圧縮版。

● それから,バルトークの「コントラスツ」。この曲はピアノ,ヴァイオリン,クラリネットの三重奏曲だから,まんまの演奏が聴けたはずだ。
 この曲名のコントラスツというのは,ヴァイオリンとクラリネットの対比ってことだろうか。ピアノはちょっと退いた位置にあるようだ。
 20世紀の曲だけれども,こちらが予想するような展開にはなってくれない。ジャズっぽいところもあって,変幻自在な感じもあり。そうなるとぼくにはついていくのが難しい。

● 久しぶりにお三方の演奏を聴けて嬉しかった。ぼくはライヴを聴くようになってから比較的早い時期に,田口さんの演奏でメンデルスゾーンのホ短調協奏曲を聴いて(第1楽章だけだったけど),鳥肌が立つような思いを味わったので,個人的に少しばかりの思い入れがあるんですね。

● 休憩後に第3部。シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」。ヴァイオリンが田口さん,ヴィオラが大島亮さん,チェロが金子鈴太郎さん,コントラバスが岡本潤さん,そしてピアノが渚さん。
 このメンバーでこの曲を聴くのは,今回が最初にして最後になるはずだ。ぼく的にはオールスターチームだ。奏者の5人もオールスターゲームのようにリラックスしているように思われた。
 そりゃそうだね。このコンサート自体がお祭りのようなものなんだからね。

● でもね,こうなると聴けなかった前半が残念に思えてきますね。逃した魚は大きいに決まっている。
 牛腸さんたちによるエワルド「金管五重奏曲第3番」があったわけだし,大貫裕子,村越大春,秋本悠希,寺田功治の4人による“乾杯の歌”もあったわけでね。

● コップの水を半分飲んで,まだ半分も残っていると思う人と,もう半分しか残っていないと思う人がいるとは,よく言われることだ。前者がポジティブ,後者がネガティブ思考の持ち主だと言われるんでしょ。ぼくははっきり後者に属するタイプ。

● まぁ,しかし,後半だけでも聴けてよかったですよ。諦めないで出かけてよかった。

2015年11月23日月曜日

2015.11.21 ギターとヴァイオリンの出会い

さくら市ミュージアム エントランスホール

● 昨年の今頃,宇都宮の東武百貨店でヴァイオリンコンサートに出くわした。百貨店の売り場の一画で,店内の雑踏が入りこむ中だったけれども,ホールで聴くのとはまた違った面白さをたたえたコンサートだった。
 演奏者と観客の距離が近いうえに,少人数だったものだから,演奏者の息づかいや気持ちの切り換えのようなものまで伝わってきた。ライヴ感が大きいということ。

● 今回,このコンサートを知ったときに,思ったのはそのことだった。ああいう距離感でまた聴けるのかっていう。
 で,自転車で出かけた。開演は午後2時。ミュージアムの入館料が300円かかるけれども,それ以外に費用は要らない。

● だが,しかし。大変な人出なのだった。主催者が予め用意した椅子では足りなくなるほどで,ホールには収まりきらず,展示室のほうまで列ができたのではないか。
 ぼくの席もけっこう後ろのほうになった。

● 演奏者はギターが渡邊洋邦さんで,ヴァイオリンが渡邊弘子さん。
 まず,洋邦さんが登場して,ヴァイス「ファンタジー」,ルビーラ「愛のロマンス」(映画「禁じられた遊び」に出てくる有名すぎるメロディーですな),タレガ「アルハンブラの思い出」の3つを演奏。
 当然ながら,座って演奏する。演奏会用の専用ホールではないから,客席に段差はない。ぼくの席からは彼の演奏している姿はまったく見えなかった。距離が近いどころではない。

● この3つはギター曲では最もポピュラーというか,よく知られたものなのだと思う。ぼくにとってはそうではないんだけどね。
 その音色がともかく直接響いてくるわけで,CDだったらここまで身を入れて聴けたかどうかわからない。否応なく(たぶん不充分だろうけど)集中させてくれるのがライヴのいいところだね。

● このあと,渡邊弘子さんが入って,ギターとヴァイオリンのアンサンブルになった。弘子さんの首から上はぼくの席からも見えたので,だいぶ気が楽になった。
 気が楽になるというのも変な言い方だけど,奏者が見えるって大事なこと。ライヴの価値の何割かはここにあると思う。

● 映画音楽を3曲演奏して,ピアソラの「タンゴの歴史」。このコンサートの白眉はここにあったといっていいでしょうね。
 楽章ごとに解説を入れるというサービスぶり。解説は最初にまとめてやってもらって,曲は通して演奏したほうがよかったかなとも思う。が,このあたりは難しいところで,これが正解というのはないんだろうな。

● 「タンゴの歴史」はCDを持っていたんでした。が,今まで聴いたことがなかったんですよ。「リベルタンゴ」一辺倒でね。
 こうして軌道修正を促してくれるのもライヴの恩恵のひとつだ。ライヴを聴きに行って,そこで初めて出会う曲って相当以上にある。そのすべてを以後聴くようになるかといえば,そんなことはもちろんないんだけど,それでも今回のような経験をすることがあるわけで。

● 洋邦さんも弘子さんも,音楽に投じてきた時間は膨大なはずで,それあればこその高みにいるんだと思う。聴衆にはどうしたってわかってもらえないことも,多々あるのじゃないか。
 であれば,孤高の音楽家的な雰囲気があっても不思議じゃないと思うんだけども,そういう演奏家って見たことがないんですよね。
 演奏を具体化するためには聴衆の存在は絶対で,演奏家は聴衆へのサービス業という色合いを免れない。相手がお客さんとあれば,愛想も振りまかなければならない。

● って,そういうことではなくて,もともと陽性の人が多いような気がする。今回のお二人もそうで,「サービス」を苦にしないというか,自分が偉いなんて思っていないというか,演奏や音楽については圧倒的な差があるはずの聴衆とイーブンなやりとりが自然にできるようだった。
 それを社交性と呼ぶんだろうか。よくわからない。

● おそらく,演奏ってぼくが思う以上に運動性が強いものなのだろう。“演奏=スポーツ”と捉えると,演奏家はアスリートであって,しじゅう身体を動かしている人だ。
 つまらぬことで内向しないクセが早期にできるのではないかと推測している。

2015年11月20日金曜日

2015.11.19 羽石道代プラス山本楓-ヒンデミット生誕120周年を記念して

栃木県総合文化センター サブホール

● 山本楓さんのオーボエを聴いてみたいと思った。と思ったからには,一度は聴いたことがあるわけだ。2年前のコンセール・マロニエで聴いている。
 そのコンクールでは彼女は2位。なぜ1位じゃなかったのか,ぼくにはよくわからないんだけれど。

● とにかく,山本さんのオーボエをまた聴くことができるとなれば,たとえ平日でも行くしかないでしょ。
 開演は午後7時15分。チケットは2,500円。当日券を購入。

● このコンサートは,羽石さんが主催する「羽石道代プラスシリーズ」の8回目。コンセール・マロニエで山本さんのピアノ伴奏を務めたのも羽石さんだった。

● 曲目は次のとおり。
 バッハ 無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調
 バッハ トッカータとフーガ ニ短調
 ヒンデミット イングリッシュホルンとピアノのためのソナタ
 ヒンデミット 組曲「1992年」
 ヒンデミット オーボエとピアノのためのソナタ
 (アンコール) バッハ 羊は安らかに草を食み

● 「無伴奏フルートのためのパルティータ」を山本さんがオーボエで演奏。黄金色の響きがホールに充ちた。それだけで気がすんでしまった。
 あとは,たぶん,ボーッと聴いていたはずだ。

● 羽石さんとの合奏が2曲(アンコールを含めれば3曲)。満足だ。
 若干気になったのは,山本さんの人がらの良さ,お嬢さんっぽさ。競い合いになると,自ら一歩退いてしまうようなところがあるんじゃないかな,と思わせるところがあった。
 いや,これは勇み足の感想ってことになるんだろうな。そんなところまでわかるものか。

● ヒンデミットは初めて聴いた。今回聴いた3曲については,CDも持っていない。
 ぼくは音楽を聴き始めたのがかなり遅かったので,聴いた絶対量があまりにも少ない。バッハ,モーツァルト,ベートーヴェンにしたって,すべてを聴いているわけではない。っていうか,聴いていない曲の方がずっと多い。
 が,その少ない中にも,繰り返して聴きたい曲がいくつもある。

● ヒンデミットのほかにも,ニールセンやファリャなど気になる作曲家はいるんだけれど,なかなかそこに分け入ることができない。
 お気に入りを繰り返し聴くほうに向かってしまう。

● 音楽を聴くこと以外にも,時間を使いたいことはいくつかある。困ったことに,ぼくに残された時間はそんなに長くはない(と思う)。
 中途半端なままに終わるのだろう。最期の息を引き取るときには,後悔の塊に襲われるに違いない。アレは最初から捨てればよかった,あそこでちゃんと突っ込むんだった,あそこで逃げるかおまえ,と,まぁ,色々と。

● かといって,意識して“選択と集中”に向かうのは,どこかが違うような気がする。気がついたら,選択して集中していたというのが理想だろうけど,凡人にはなかなか以上に難しい境地だね。

● とはいえ,今日聴いたヒンデミットの曲はCDを揃えたいね。熱が冷めないうちにCDを聴いておさらいをしておきたい。
 おさらいをして,その後は一度も聴かなかったってことになってもいいから。

2015年11月17日火曜日

2015.11.15 第6回音楽大学オーケストラ・フェスティバル-上野学園大学・東京藝術大学

東京芸術劇場 コンサートホール

● 「首都圏9音楽大学と2つの公共ホール(東劇とミューザ)が連携して行う音楽大学オーケストラ・フェスティバル」の今回は2回目。開演は午後3時。

● まずは,上野学園大学。指揮は下野竜也さん。
 曲目は次のとおり。いずれも「死者の追悼のために書かれた」もの。
 ストラヴィンスキー 管楽器のためのシンフォニーズ(1947年版)
 ペルト カントゥス-ベンジャミン・ブリテンの思い出に
 ブリテン シンフォニア・ダ・レクイエム

● 木管と金管だけが入って,「管楽器のためのシンフォニーズ」。プログラムノートの楽曲紹介によれば,「ドビュッシーを追悼して」という副題が付されている。
 静かに時が過ぎていく。

● 「カントゥス-ベンジャミン・ブリテンの思い出に」もまたしかり。「三和音の純粋な響きと単純な旋律の反復」なんだけど,奏者は気を抜けない。
 「弦楽合奏の清冽な響き」とは楽曲紹介に出てくる言葉の引き写し。そのとおりで,清冽という言葉がじつにピッタリくる。

● 下野さんの指揮ぶりはどう表現すればいいだろう。かつて将棋で,中原は自然流,米長は泥沼流,谷川は光速流と言われた。そのひそみに倣えば,火の玉流とでもいうか。
 内に秘めて,秘めたところを表現するのではなく,ありったけを外に出す。出してオケにぶつける。同時に,奏者に気にするなとか,そうそうそれでいいんだという,指示や評価も示す。

● 藝大はR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を持ってきた。指揮は山下一史さん。
 一言もって評すれば,しなやかな演奏だった。そう,しなやか。二十歳をいくらか超えたくらいの年齢の若者たちのオーケストラだからこそ,と思えた。
 いやいや,それにしたってこうまでしなやかな演奏はそうそう聴けるものではないように思う。

● それを典型的に体現していたのがコンミスで,ぼくはもう呆れてしまった。
 こういう演奏を見せられると,さすがに藝大の底力はすごいという印象になる。

● こうして,音大フェスティバルの前半が終了。次回は所を替えて,ミューザ川崎で11月28日。

2015年11月11日水曜日

2015.11.08 第6回音楽大学オーケストラ・フェスティバル-武蔵野音楽大学・洗足学園音楽大学

東京芸術劇場 コンサートホール

● 今年も開催される首都圏の音楽大学オーケストラ・フェスティバル。著名な指揮者が音大の学生オケを率いて競演する。チケットは1,000円。破格の安さだ。ぼくは通し券を買っているので,750円。
 問題は,自分を会場まで運んでいくための電車賃が3,790円ほどかかること(自治医大駅でいったん降りて,「休日おでかけパス」を買う)。しかし,それでも聴きに行く価値は充分にある。今回で3年目になる。

● 初回の今日は,武蔵野音楽大学と洗足学園音楽大学。開演は午後3時。
 武蔵野音楽大学管弦楽団はシベリウスの2番。指揮は梅田俊明さん。

 今,ここで演奏している学生たちの多くは,演奏家ではない道を進むのだろう。そこは音大だからといって他の学部とあまり異なるところはないだろう。
 問題は,法学部や経済学部,文学部といった普通の学部であれば,普通に高校生をやっていればいい。そのために意識して抑制することなど何もなくてすむ。何もなくてすむと言い切ってしまっていい,とぼくの経験から言っておく。

● ところが,音大に入るためには,子どもの頃から楽器をやっていなければならない。1年か2年,受験勉強的に楽器の練習をして入れるものではないだろう。
 楽器の練習のために,やりたいと思ったのにやれなかったことも多かったに違いない。そこが普通の学部とは違う。

● 入学前に投じてきた時間と労力(たぶん,お金も)がまるで違うのだ。加えて,入学時にすでに進路の幅を大きく制限されることを,自ら受け入れているように思われる。会社員や公務員といった普通のサラリーマンになりたいとは思っていないだろうから。
 入学後も,法学部や経済学部の学生は勉強などしないですむけれども,音大だとレッスン漬けになるのではないか。入学後の過ごし方も他とはだいぶ異なるものになる。

● にもかかわらず,学生の多くはサラリーマンになる。そこの屈折はいかほどのものなのか。案外,そういうものだと受け入れているのかもしれないけど。
 そういう目で見てしまうからなのか,ステージの学生たちに純なるものを感じてしまう。ま,こちら側のたんなる感傷なのだろうけどね。

● してみれば,多くの学生にとっては,今回の演奏が今までの20年近いあれやこれの体験の集大成なのだろう。
 プロの演奏家になるのでもない限り,卒業後にこれまでと同じ質量のレッスンを継続することは難しいはずだから,それぞれ自分史上最高の演奏をするのが今回なのかもしれない。

● という気持ちでシベリウスを聴く。しみじみとした演奏だった。終演後はいくつかブラボーの声が飛んだ。ぼくの隣のお父さんも叫んでいた。

● 洗足学園音楽大学管弦楽団は「展覧会の絵」。指揮は秋山和慶さん。
 3日にも聴いたばかりの曲だ。そのときは,サクソフォンをクラリネットと間違えるというチョンボを犯した。
 今回はそこはさすがに誤らなかったけれども,さて,どこまで聴けたものやら。

● ぼくはプロオケの演奏はさほど聴いた経験がないので,あまり語る資格がないんだけど,たぶん,プロの演奏を聴いても,ここまで襟を正す気持ちになるかどうか。
 演奏に載せているものの大きさ。それが彼らは違うように思う。そこが直截に伝わってくるというか。
 終演後はこちらも疲れている。もちろん,心地のいい疲れではある。

● ただし,それもこちらの感傷のせいかもしれない。聴くという行為にもたぶん創造的な部分があるのだと思うけど,そこを聴き手が自在に操れるものではないのだろう。

2015年11月5日木曜日

2015.11.03 ル スコアール管弦楽団第39回演奏会

すみだトリフォニーホール 大ホール

● 2年前の7月に34回目の演奏会を聴いた。それ以来の二度目になる。
 そのときは,ベートーヴェンの7番をやってから,ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」を演奏したのだった。ベートーヴェンでこちらの聴く体力はほぼ消耗してしまって,「ペトルーシュカ」にはまったくついていけなかった。

● そのことを思いだしながら,今回のプログラムを見てみる。
 ムソルグスキー 禿山の一夜(原典版)
 ムソルグスキー(ラヴェル編) 展覧会の絵
 ラフマニノフ 交響曲第3番
 「展覧会の絵」の管弦楽版を全曲聴いたあとに,ラフマニノフの3番が来る。最近のコンサートって,交響曲を2つとか,重量級のプログラムが多くなっている印象があるけれども,それにしても。

● 開演は午後2時。チケットは1,000円。当日券を購入。指揮は橘直貴さん。
 客席は満員御礼。前回もそうだった。ル スコアール管弦楽団は,都内にあまたあるアマチュアオーケストラの中でも,屈指の水準を誇る楽団のように思われる。このあたりはお客さんはよくわかっているのだろう。

● 「展覧会の絵」の第2曲。クラリネットのソロが素晴らしいと思った。クラリネットでこんな音が出せるのかとシミジミした。が,その後,そのクラリネットの出番がない。あれっと思ったら,クラリネットじゃなくてサクソフォンだったんでした。
 クラリネットとサクソフォンを間違えますかねぇ,普通。ま,その程度の聴き手だってことですなぁ。

● そのような聴き手であっても,クラリネットあらためサクソフォンの音色は印象的だった。ここはムソルグスキー,じゃなくてラヴェル,のうまいところなんだろうか。
 ここだけ,じつにここだけは他の楽器ではダメで,サクソフォンでなければならない,と。それが功を奏しているってことなんですか。

● そうだとしても,ムソルグスキー(じゃなくてラヴェル)云々と言えるには,それが言えるだけの演奏水準が確保されていることが前提で,その前提が成立していると,聴き手の想像の領域が拡がる。遊びの余地が大きくなる。
 それがつまりいい演奏ということになる。今のところは,そう思っている。

● ラフマニノフの2番は聴く機会が多いけれども,3番はそうではない。生で聴くのは今回が初めて。
 おおらかにゆったり構えている部分もあり。時にマーラーを連想させるところもあり。めまぐるしいところもある。プログラムノートの曲目解説には「狂詩曲風」という表現があったけれども,なるほどと思った。
 何度か聴かないと,腑に落ちてこなそうだ。というわけで,これは自分の宿題になった。

2015年11月4日水曜日

2015.11.01 くるみの会創立40周年記念 特別演奏会

宇都宮短期大学 須賀友正記念ホール

● くるみの会音楽振興会というのがあって,それが創立40年を迎えましたよ,と。その特別演奏会を開催しますよ,と。
 そのくるみの会がどういう経緯で設立されてどんな活動をしているのか,詳しいことはぼくは知らない。

● この演奏会を聴いてみようと思ったのは,著名なピアノ協奏曲が4つも聴けるから。
 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番 ハ短調
 グリーグ ピアノ協奏曲 イ短調
 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調
 ウェーバー ピアノ小協奏曲 ヘ短調

● 開演は午後2時。チケットは2,000円。

● バックを務める管弦楽が素晴らしかった。「くるみの会音楽振興会が主催する栃木県ピアノコンクールのコンチェルト部門本選会でのオーケストラパートを受け持つために2009年に結成されました」とあるんだけれども,指揮は増井信貴さんで,コンサートミストレスは北川靖子さん。ファゴットには東京フィルの古澤真一さんがいるし,ヴァイオリンには大久保修さんの顔もあった。宇短大の先生方も加わっているようだ。
 栃木県ピアノコンクールのためにここまでのオーケストラを設えるのは,くるみの会の実力か。

● この管弦楽を聴けただけでも,2,000円の元は充分以上に取れた感じ。この管弦楽で,ベートーヴェンのピアノ協奏曲を2つも聴けたんだから。
 管弦楽の質の高さを堪能できたことと,ベートーヴェンの怪物性を再確認できたことが,今回の演奏会の収穫。
 かつてなかった交響曲を9つも作り,弦楽四重奏曲を16,ピアノ協奏曲を5つ。とんでもない多作。量は質に転化するというけれど,転化を待つ必要もない。ベートーヴェンの場合は。最初から質を備えているんだから。

● まずはベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。管弦楽が主旋律を重厚に奏ではじめる。これで掴みは充分だ。曲の然らしめるところだけれども,その曲を支えるのがオーケストラの表現力。
 ピアノは宇短大附属高校1年の飯野愛純さん。曲が進むにつれて,彼女がどんどんきれいになっていく。もちろん,こちら側の錯視ということになるんだけど,不思議な光景を見るような気がした。

● 次のグリーグでは,第1楽章のみ宇大2年生の阿部光希さんが弾き,あとを松本明さんが引き継いだ。さすがに位が違う。彼のピアノを聴けたのも,また今回の収穫。

● ベートーヴェン5番のピアノは鈴木奈穂さん。この曲はあまりに高名だけれども,ぼく的には3番のほうが好きだ。食いついていくのにとっかかりがあるっていうか。
 食いついていくという聴き方はどうなんだろうという問題が別にあるけれど。

● ウェーバーのピアノ小協奏曲。ピアノは坪山恵子さん。ここまでの演奏ができるようになるまでに費やした時間と労力を考えると,ため息がでそうになる。
 分け入って行くにも勇気が必要な分野かもしれないなぁ。どんな分野でもそうかもしれないんだけれども,音楽の演奏ってそこのところが見えやすいんだと思う。
 趣味でやっている分にはいいけれども,これを仕事にしようとするところまで行くと,茨の道を覚悟しなければならない。