2010年9月30日木曜日

2010.09.04 藝祭2010:東京芸術大学

● 4日も同じ電車に乗って上野に向かった。この日は10時から始動。
 まずは生田会(生田流箏曲)の演奏(6ホール)。前日の奏楽堂の大演奏会に比べると小規模の演奏だった。学年ごとにひとつずつ演奏した。1年生は「飛鳥の夢」(宮城道雄),2年生は「五段帖」(光崎検校),3年生は「春の詩集」(牧野由多加),4年生は「松竹梅」(三ツ橋勾当)。
 全部で約70分の演奏だった。

● 法学部や経済学部,医学部,工学部など普通の学部の学生は,大学受験までは普通の勉強しかしていない。専門の勉強は入学後にゼロから始める。
 しかし,彼ら芸大生は,普通の勉強のほかに,入学後に学ぶはずの器楽や声楽や舞踊についても,相当以上の研鑽を積んでいる。そうじゃないと合格できない。ということは,普通の勉強以外のことをやった分だけ,充実した少年・少女時代を過ごせたってことになるだろうか。
 実際には,高校時代は野球ばかりしていたっていう法学部生もいるだろし,将棋三昧に明け暮れたっていう医学部生もいるだろうから,ひとり芸大生だけが普通+αの暮らしをしてきたってことではないけれど,大雑把にいえば入学するまでの暮らしぶりのユニークさでは,芸大生が他大学の学生に優っているだろう。

● ぼくのような普通だけでアップアップしていた者からすると,彼らの来し方が羨ましくもあり,妬ましくもある。また,一芸を選んだ彼らの潔さが眩しくもある。

● さて,次は奏楽堂で演奏される「フィガロの結婚」を見る予定にしていた。3年生によるオペラ公演とプログラムには書かれている。が,入場することができなかった。10時から整理券を配っていて,それがないと入場できないということだった。しかも,整理券は予定枚数の配布を終了している,と。
 であれば,それもプログラムに載せておいて欲しいぞ。何度も来ている人にとっては常識なのかもしれないが,今年初めて来たという人(ぼくのこと)には寝耳に水になってしまう(ただし,こちらが見落としていただけかもしれない)。
 3日間で最も楽しみにしていたのがこれだったので,残念感も大きい。気持ちを立て直すのにちょっと時間がかかってしまった。

● しかし,「ラ・フォル・ジュルネ」芸大版である。代替はある。6ホールに戻って,三味線音楽自主演奏会を聴くことにした。そのあとは,日本舞踊の自主公演。
 集団舞踊というか,大勢が一緒にひとつの踊りを踊るのだろうと予想していたのだが,実際の演目は長唄に合わせる踊りだったり,清元や常磐津だったりした。踊りながら演じる,演じながら踊るという類のもの。
 演目名を挙げておこう。「舌出三番叟」「落人」「粟餅」「鞍馬獅子」「寿万歳」の5本。バックの唄や三味線,囃子はテープのこともあれば,本物が付くこともある。

● 最初の「舌出三番叟」が終わったあと,ぼくの後ろにいた親子(母親と息子)が巧いねぇ,さすがだねぇと感想をもらした。そうか,これは巧いのか,とぼくは思った。
 お客さんもクラシック音楽のコンサートホールに足を運ぶ人たちとは違う。何というのか,こういうものを好む人たちの顔ってあるでしょ。お客の中には興業主もいるのではないかと思われた。ひょっとしたら学生たちの親かもしれない。
 この2日間で邦楽のシャワーをたっぷり浴びた。自分を揺さぶれたとは思わないし,自分の中の何かが変わったとはさらに思わないが,なにがしかの満足感が残ったのも事実だ。

● 15時まで邦楽シャワーを浴びて,30分後に「トロンボーン科夏の祭典」というのを聴いた。要は,トロンボーンのアンサンブル。トロンボーンのみで演奏会(1時間弱)を構成できるのも芸大ならではだと思う。
 プログラムに奏者の出身地まで載っている。北海道,京都,宮城,秋田,福岡,千葉なぞ全国に散っているが,大半は地方出身者で東京者は少ない(というか,いない)。東京には日本の1割の人間が住んでいるんだから,ひとりやふたりは混じっていてもいいんじゃないかと思うけど,パワーは地方から生まれるってか。

● 最後は17時からのオルガンコンサート(奏楽堂)。2時間半にわたって,パイプオルガンの音色を聴いた。もちろん,初めて聴く音色だ。
 音じたいが宗教音楽的。神とつながるための音,神を呼ぶための音って感じ。とんでもなく響くから,楽曲の違いを音が吸収してしまうところがある。何を聴いても同じに聞こえる。演奏の巧拙も感知しにくい。
 何より,ちょっとの量でお腹が一杯になってしまう。2時間半も聴くのは,途中に休憩があったとしても,けっこう忍耐を要する。9本の演奏のうち,ひとつはサクソフォンと,ひとつは管弦楽との共演になったが,オルガン以外の音が入るとホッとした。
 管弦楽がバックに入ったのは,エルガーの「威風堂々 第1番」。わずか数分の演奏のためにオーケストラを用意できるのも芸大だからこそだろうねぇ。指揮者は学部5年生の女子学生。院ではなく学部5年というのがいいね。

● こうして2日目も充実のうちに終わった。東京との接点がひとつ増えた気がする。上野といえばアメ横だったけれど(子どもが小さかったときには動物園も),これからは芸術の街としての上野ともお付き合いができるかもしれない。
 しかし。栃木の自宅を7時に出て,夜の10時半に帰宅するのを2日続けると,けっこう疲れる。

● 藝祭は明日(5日)にも開催され,プログラム的には3日目の5日が最も充実しているっていうか,楽しみにしてもいた。ただし,芸大の方針として日曜と祝日には奏楽堂の使用は認めないらしい。5日は奏楽堂を使えないので,混みあうだろうなと予想できる。3日も4日も,各ホールとも満員御礼で立見客が出ていたからね。あんまり混みあうのもなぁと思ってしまった。
 3日連続で自分の楽しみのためだけに東京に出るのも,ヨメに対して憚るところがあった。ぼくが半日でもいれば一緒に買物にも行けるはずだ。
 つまるところ,3日目は上野行きをやめた。5日の午前中はヨメの買物につきあって過ごした。

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